SSブログ

3月11日のシュルレアリスム展 [その他]

国立新美術館.jpg


3月11日、新宿まで出かける用事があり、
その帰りに、
「シュルレアリスム展」を観に、六本木にある国立新美術館まで行きました。
画像は、そのユニークな外見の様子です。
この時は、のんきにこんな写真を撮って、足取りも軽く中に入って行ったのですが。
国立新美術館あっぷ.jpg


入って二つ目くらいの展示室に移動した時のこと。
あれ?揺れてる?
くらいに感じた地震はそのまま終息する様子もなく、次第に揺れを大きくしていきました。
館内がざわついて、奥の展示室へ進んでいた人たちも不安を感じたのか、
だんだん人の流れが入口へと戻ってきました。
と言ってもパニックとかいう感じではなく、皆、ゆっくり歩きながら入口方面に移動している感じでした。
壁からワイヤーで吊られていたマルセル・デュシャンの「瓶掛け」が、ゆらゆらゆらゆら揺れていました。


入口近くまで来た時には、ちょっと立っているのが不安になるくらいの揺れを感じ、
壁に手をかけた時、
係員の人から、「落ち着いて、その場に座ってください!」との指示がありました。
パニックになって、皆が一斉に入口に殺到するのを防ぐためかな?
と思いながら、指示に従い、しゃがみ込みました。

展示室のこと、頭上にはたくさんのライト。
追って、「ライトの下に居る方は、ライトを避けて場所を移動してください」との指示。
皆、天井を見上げながら、位置を調整して揺れが納まるのを待ちました。


私は、
国宝級の作品が展示される事の多いこの美術館のこと、
観客の事ももちろんだけど、作品を守るためにも頑丈に作られているはずだから、
ここは安全そうだな、などと思いながら、しゃがみ込んでいました。


しばらくして、ようやく揺れが収まり、
また観賞できるようになりましたが、それも最後の展示室に入った頃に、再びかなり大きな余震。
同じように、その場に座るような指示。


いつもなら最後の展示室まで行くと、また戻って、特に好きだった作品をもう一度観に行くのですが、さすがにちょっとそういう気分になれず、そのまま退室しました。
そしてふと気づく。
新宿からここまで東京メトロで来たけど、
さすがにこれだけの揺れの後に地下鉄は動いてないだろうなぁ、と。
渋谷まで歩きかなぁ・・・



などと思いながら、携帯で確認してみると、
なんと地下鉄どころかJRも私鉄も、都内の鉄道はすべて止まっていました。
うわ!帰れない!
幸い広い新美術館のロビーに、館の方がたくさん椅子を出してきてくださり、
帰る手段をなくした人たちに、電車の復旧を待つ間の場所を提供してくださいました。
それでも、この時はまだ、あんなに長い間復旧しないなんて想像していなかったので、
ここのロビーならトイレもあるし、暖かい飲み物も買えるし(高いけど)、
待機場所としては理想的だな、なんて、のんびり構えていたのでした。


・・・が、
15時前ころに始めの地震があって、18時になってもまだ鉄道の復旧のめどは立っていませんでした。
このままここに居ても、朝まで居る事になりそう・・・ 
疲れたし、外よりはマシだけど広いロビーは寒くなってきていました。
なにより、携帯の電池が切れそうになっていて、家族と連絡も取れなくなってしまう。
充電器か充電サービスがあるお店を探しに、とりあえず六本木方面に移動する事にしました。
日が落ちた戸外は、さすがに冷え込んでいました。


六本木方面は人でごったがえしていました。
目的が果たせそうなお店はなく、東京メトロの改札あたりでしばらく再開を待っていましたが、
携帯で見たニュースでJRは終日運転見合わせを決定した、という記事を発見。
これで電車で帰れる手段がなくなってしまいました。
あとは、仕事が終わった旦那さんに車で迎えに来てもらうしかない、と判断して、
携帯電池節約のため、公衆電話を待つ人の列に並んで連絡を取り、
私は渋谷まで歩き、車通勤でもう帰宅できていた旦那さんに渋谷に車で来てもらい、
そこで落ち合う事にして、さて行動開始です。



交差点の交番で渋谷の方向を聞き、出発。
とりあえず首都高に沿って歩けば着くかな、なんて適当な事を考えて歩き始めましたが、
同方向へ歩く人達の数はものすごく多く、歩道はお正月の明治神宮のようでした。
なんとなく心強いものですね。
ゲルマン人ならぬ大和民族大移動、っていう感じで、皆さん心持早足で、
同じ方向を目指して歩いていました。



でも、歩いている時はよかったんです。
しばらく元気に歩いて見なれた渋谷の東横線のホームや歩道橋が遠くに見えた時には、
ほっと安心したのですが、それもつかの間、
渋谷は六本木以上の人の波、
さらにJRや東横線の改札や通路はシャッターが下ろされ封鎖されていて、
駅の北口から、待合わせ場所の南口に行くまでに、地下道を渡ってまた歩道橋を渡りなおして、と
えらい苦労を強いられました。(歩道橋も一部ふさがれていました)
そして着いた待ち合わせ場所。南口バスターミナルの一角だったのですが、
電車が止まってバスのみに頼る、ものすごい人の数。
バス停の行列が遥か離れた歩道まで繋がり、
さらに同じようにお迎えの車を待つ人で、
歩道はいっぱいでした。


その頃、危なかった携帯の電池がとうとう切れました。
家を出発した旦那さんからの、「大渋滞」というメールを最後にして、
連絡も取れなくなりました。


渋谷についてから、旦那さんと落ちあえるまで約4時間。
バスターミナルは人も車もバスもいっぱいで、
ターミナル内に一般車が停車しようものなら、すぐに警察の方が来て発信するように指導していました。
なので、ほんとうに寒くて膝も腕も歯もガタガタ震えが止まらないくらいになったのに、
もしも行き違ったら・・・と不安でその場を離れることができませんでした。
携帯が使えれば、着いたらすぐに連絡してもらえるので、近くの建物の中で待つこともできたのですが、それもできず。
たまたま同じ場所で待ち合わせていた方たちと、お話をしながら、元気づけあいながら、
寒さに震えて、車が入ってくるはずの車線を見つめ続けていた4時間は、
多分忘れられない夜になると思います。


そのうち、警察の方から東横線と田園都市線が復旧しました!の情報が入り、
その後も京王線、東京メトロ動いてます!との情報も。
バスターミナルからも銀座線が動き出したのが見えるのに、
我がJRは冷たくシャッターを下ろしたまま・・・
そのシャッターを恨めしい目で眺めながら、JR~勘弁してよ~もっと頑張ってよ~!
などと心の中で叫んでいたのでした。



渋滞をかいくぐって迎えに来てくれた旦那さんの車に乗り込めたのは、
日づけも変わった24時半頃のことでした。
車に乗り込んでも、かなり長い間震えは止まらず、口もうまくまわらない状態でした。
そして、もちろん帰りもピタリとも車が動かない渋滞地獄。
ようやく家に帰り着いたのは、すっかり明るくなった12日朝の6時頃のことでした。



寒い渋谷の街で待っている間、
チョコレートをくださった女の子、
携帯の電池が切れている事を話したらテレフォンカードを下さって公衆電話のある場所を教えてくださったお母さん、
ほんとうにありがとうございました!
なにより、一人でぽつんといつ来るかわからない車を待っているより、
たわいないお話をしながら、ご一緒に過ごさせていただけて、本当に心強かったです。
皆さん、ご無事に帰宅されていますように。



それから、寒い外よりはるかに暖かい駅の改札付近や、改札の中にあるトイレを解放して下さった東京メトロの六本木駅のみなさん、
六本木から渋谷へと歩く道の途中、暖かいスープのようなもの(?)を配り、
お店のトイレも使ってくださーいと寒い中に出てきて叫んでいた飲食店のみなさん、
ありがとうございました。
日本もまだまだ捨てたものじゃない、って思いました。



そしてもうひとつ思ったのが、
携帯が使えなくなった時、情報からも遮断されほんとうに何もできず、
不安になってしまった自分が、
普段いかに携帯に頼り切って、あるのが当たり前のように思って過ごしているのか、
と言う事を痛切に感じました。
今回、携帯の電池がなくなる事が一番不安でした。
携帯への依存度の高さ。
これは今回実感した、自分への反省点でした。





また、途中で携帯からの情報が何も取れなくなってしまった私にとって、
帰宅してから家のTVで見た激震地の惨状は、
想像を絶するものでした。
怪我もなく、ただ寒い想いをしただけで帰宅できた私は、
自分ばっかり辛かったように思っていましたが、
とんでもない甘えだったことがわかりました。


宮古、大船渡、田老は、学生時代に友人と旅行したことがあります。
海からの風景が美しい街でした。
特に、チリ大地震の際の津波で甚大な被害を受けた経験を持つ田老町は、
当時の私たちが驚愕したほどの、
というかほとんど信じられない程の分厚さの堤防に守られている町でした。
私たちが持っていた堤防というものの常識を、
はるかに超えた厚みと頑丈さを持った堤防の上を歩きながら、
チリ地震の際の被害がこの町の方々の胸に遺した傷跡の深さ、大きさと
その悲劇を繰り返すまい、との願いを込めて築いたであろうこの堤防の頼もしさは、
学生であった私に深い印象を残しました、
しかし、あの常識はずれとも思えた巨大な堤防でさえ、今回の津波を防ぎきれなかったのだ、と思うと、
自然の脅威の恐ろしさを改めて想い、
田老の町の方々の無念の思いを想像するに至っては、胸がつぶれるような思いです。




TVに写しだされる被災地の惨状には、ほんとうに心がつぶれそうな痛みを感じました。
被災地の皆さまに、心からのお見舞いを申し上げます。

nice!(23)  コメント(10)  トラックバック(0) 
共通テーマ:グルメ・料理

nice! 23

コメント 10

pn

ある意味印象深い美術鑑賞ですね。
ほんと冷や汗かいただけの我々はまだマシでした。映像、見るに耐えません。
とにもかくにもご無事で何よりです。
by pn (2011-03-12 20:32) 

お散歩パンダ

記憶に残る美術鑑賞になってしまいましたね。
ご無事で何よりです。
身体の芯まで冷えてしまったようですから、
しばらく体調に気を付けてくださいね。
by お散歩パンダ (2011-03-12 22:24) 

cello

本当に本当にお疲れさまでした。
ご無事で何よりです。
by cello (2011-03-13 02:21) 

さる1号

現地の惨状をTVで見ながら呆然としています。被災にあわれた方々の心痛を思うと気分が押しつぶされて何もする気が起きないですね。
何かできることがあればと思うのですが・・・
原発のメルトダウン、映画の題材にもなっていましたが、まさか現実のものとなるとは・・・それもここ日本で。
by さる1号 (2011-03-13 08:08) 

淳司

大変な思いをされましたね・・・。
田老の町の堤防。
そんなに立派だったのですね?
それが破られるとは・・・。
まさに自然の驚異!
人間は無力ですね・・・(><)b
by 淳司 (2011-03-13 10:24) 

angie17

大変な思いをされていたのですね。
そこまで大渋滞だったとは知りませんでした。

携帯への依存度・・
今回、皆が思い知ったのではないでしょうか?
私も昔のように、小さな電話帳を作ろうかと思っています。
by angie17 (2011-04-01 18:29) 

pn

節電でケーキ焼いてないのかな?
具合悪いのかな?
心配だな。
by pn (2011-04-18 20:29) 

elmolve

同じ日に出張予定で、午後はこの展覧会を観に行く予定でした。
出張がなくなり、また来週、と楽しみにしていたのんきな
あの頃が遠い昔のように思えます。

もし、展覧会に行ってたら、どこでどうしていたかしら、
と思い、検索してこちらのブログに偶然たどり着きました。

詳細なレポート有難うございます。
そして、つくづく自然の驚異を思い知らさせました。


ちっぽけな人間だけれど、書き綴ってくださった東京の夜の出来事には、
ただ自然におびえるだけではなく、
人間には心の温かさがあると改めて感じました。

by elmolve (2011-04-21 11:34) 

もぐ

皆さま、ご訪問、nice! コメントをありがとうございます。
おひとりおひとりへのお返事ではなくて、申し訳ありません。


たかだか数時間の帰宅難民でしたが、
それでも、真夜中近い渋谷に立ち続けた時の、
からだの芯から冷え切った寒さ、そしてその辛さは
生まれてはじめてのものでした。
スキー場で経験した寒さともまるで違う、ほんとうに辛いものでした。
意気地なしの私は、これだけでも大変だ、とその時思ったのに、
被災地の方々は、遥かに北の土地で同じ夜、そしてそれ以降の今日までの日々を、
どのようなお気持ちで過ごされてきたのでしょう。


震災の日から2ヵ月以上たちました。
まだまだ被災地では大変な状況が続き、
ましてや福島第一原発では、次々と問題が起こっていて、
閉塞感がぬぐいきれない気がします。

首都圏では、
スーパーにも品物が戻り、計画停電も(今のところ)実施されず、
携帯電話の緊急地震速報も鳴りださなくなり、
当初の緊迫感が薄れてきて、3月11日前の生活に戻りつつあるように感じられます。

でも、被災地の方々の事を忘れずに、自分に今できる事を考えながら、
平凡な日々に感謝しつつ、生活していかなくては、と思っています。
by もぐ (2011-05-18 12:10) 

もぐ

>elmolveさん

はじめての、それもソネブロ以外からのご訪問とコメントを、ありがとうございます。
なのに、随分長い間お返事も書けずに申し訳ありませんでした。

もしかしたら、同じ場所で床にしゃがみこんで地震がおさまるのをずっと待っていたかもしれませんでしたね。

あの日の東京はほんとうに大混乱でした。
そして、
あって当たり前と思っていた電車や携帯電話が使えない事がもたらす影響の大きさを認識させられました。
そして、都市機能の脆弱さも、思い知った気がします。

そんな中で、見知らぬ方たちとの小さな交流に、
どんなに心を暖かくさせていただけたか、ということを
心に刻む事ができました。
日本中がこういう気持ちで被災地の方々を応援していけたらいいなぁ、と願っています。
by もぐ (2011-05-18 12:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0